残業申請制があっても未払い残業は防げない?IPO準備で見直すべき運用ルール

- 残業申請制があっても未払い残業が起きる理由
- 厚生労働省が示す未払い残業対策の考え方
- 残業申請制で見直すべき運用ルール
IPO準備を進める企業では、勤怠管理体制の整備が重要な確認ポイントになります。
その中でも注意したいのが「残業申請制」です。
「残業は事前申請制にしているから問題ない」と考えていても、実際の労働時間と申請時間に乖離があれば、未払い残業リスクを防ぐことはできません。
厚生労働省のガイドラインは、会社に求められるのは「申請制度を置くこと」ではなく、「実際の労働時間を適正に把握し、必要に応じて補正すること」だと明確に示しています。
また、IPO準備においても、JPX(日本取引所グループ)の資料では、勤怠管理方法、未申告残業の発生防止、36協定違反の状況、未払い賃金の有無など、制度の有無だけではなく実際の運用状況について説明が求められます。
つまり、残業申請制は「存在しているか」ではなく、「適切に機能しているか」が重要です。
(参考)厚生労働省_労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
日本取引所グループ_新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領
残業申請制があっても未払い残業が起きる理由
①申請ルールと実労働時間が一致しない
残業申請制は、本来、業務量の把握や長時間労働の抑制を目的とした管理方法です。
しかし、賃金支払いの基礎になるのは申請時間そのものではなく、実際に労働した時間です。
厚生労働省は、使用者に対して、労働者の始業・終業時刻を確認し、適正に記録することを求めています。
つまり、申請制度は管理手法の一つにすぎず、実労働時間の把握義務を置き換えるものではありません。
②「申請していない残業」でも放置していれば問題になる
自己申告制や申請制を採用している場合でも、申請時間とPC使用時間、入退館記録などの客観的な記録に大きな差がある場合、会社は実態を確認し、必要に応じて修正する必要があります。
言い換えると、「本人から残業申請がないから残業ではない」という判断はできません。
会社側が実態とのズレを放置すれば、未払い残業リスクにつながります。
③IPO準備では「制度がある」より「運用できているか」が重視される
IPO準備では、残業申請書のフォーマットが整っているかだけでは十分ではありません。
重要なのは、その制度によって未申告残業を防止できているかです。
JPXの新規上場申請資料の記載要領では、以下のような項目について説明が求められています。
・勤怠管理の方法
・管理職による承認方法
・人事部門による管理方法
・未申告の時間外労働を防止する取り組み
・36協定違反の状況
・長時間労働防止策
・賃金未払いの発生状況
つまり、IPO準備においては「規程や制度があること」ではなく、「記録・確認・是正までの運用ができていること」が重要になります。
厚生労働省が示す未払い残業対策の考え方
労働時間を正しく把握することが出発点
未払い残業対策の基本は、労働時間を正しく把握することです。
始業・終業時刻は、使用者の現認、またはタイムカード、ICカード、PC使用記録などの客観的記録を基礎に確認・記録するのが原則とされています。
まずは正しい記録がなければ、問題の発見や改善もできません。
自己申告制・申請制には限界がある
自己申告制や残業申請制そのものが否定されているわけではありません。
ただし、適切に運用するために厚生労働省は以下のような運用ルールを求めています。
・対象者と管理者への説明
・客観データとの突合
・乖離がある場合の実態調査と補正
つまり、自己申告制は「本人が出した数字をそのまま採用する制度」ではなく、会社側が自己申告された時間を確認する仕組みまで含めて初めて適切な労働時間管理になります。
申告を抑制する運用はリスクになる
厚生労働省は、労働者が自己申告できる時間外労働に上限を設けたり、上限超過の申告を認めないなど、適正申告を阻害する措置を講じてはならないとしています。
例えば、
- 申請できる残業時間に上限を設ける
- 上限を超える申請を認めない
- 残業申請をしづらい雰囲気を作る
といった運用は、未払い残業につながる可能性があります。
「サービス残業はやむを得ない」という同調圧力や職場風土自体が問題の温床だとされ、トップの決意表明、労使での取組み、相談窓口の整備などが求められています。
残業申請制で見直すべき運用ルール
①事前承認がない残業を認めない運用になっていないか
事前承認は業務統制の手段としては有効です。
ですが、それを理由に、「承認がない残業=労働時間ではない」と扱うことはできません。
実際に労働が発生している場合、承認の有無と賃金支払いの必要性は別に判断する必要があります。
■見直しポイント
・実際の労働時間を確認する仕組みを整える
・必要に応じて適正に精算する
・無承認残業が起きた場合の把握・申告・精算ルートを用意しておく
②申請できる時間数に暗黙の上限がないか
「月20時間までに」「これ以上は申請しづらい‥」という空気は、実際の労働時間の把握を妨げる可能性があります。厚生労働省は、上限設定など申告を阻害する措置を明示的に問題視しています。
■見直しポイント
・残業時間の削減をしたい際は、申請時間を制限するのではなく
業務量の調整、人員配置の見直し、業務効率化によって対応していく
③実労働時間と申請時間の乖離を確認しているか
残業申請制を残すにしても、申請時間だけで完結させないことが重要です。
自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正が必要とされます。
■見直しポイント
・定例運用に自己申告の申請時間と入退館記録、PCログなどの客観的なデータの突合を組み込む
・乖離がある場合の実態調査や修正ルールを決めておく
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