「通勤手当の非課税限度額」が引き上げへ!最新改正で変わる点と人事の実務対応を解説

この記事でわかること
  • 「通勤手当の非課税限度額の引き上げ」とは?
  • 法改正で変更となった内容
  • 「適用開始日」の注意点
  • 年末調整に関する注意点

「通勤手当の非課税限度額の引き上げ」とは?

2025年11月に、自動車や自転車などの「交通用具」を使用して通勤する給与所得者に支給される通勤手当の非課税限度額が引き上げられました

この改正は、一見するとシンプルな限度額の変更に見えますが、その「いつから適用されるか」という適用タイミングが極めて複雑であり、本年2025年度の年末調整業務に大きな影響を与えます

人事担当者の皆様が、この改正を確実に自社の実務に落とし込み、
年度末の混乱を避けるために、国税庁のQ&Aに基づいた実務的な対応策を解説します。

 

法改正で変更となった内容

今回、所得税法施行令の一部を改正する政令が令和7年11月19日に公布されました。

この改正は、自動車や自転車などの交通用具を利用している従業員に支給される通勤手当の「課税されない上限額」を引き上げるものです。

非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて細かく区分され、それぞれ金額が引き上げられています。

公共交通機関(交通機関または有料道路)を利用している人への非課税限度額(月額150,000円が最高限度)に変更はありません。

 

■対象者
自動車や自転車などの交通用具を使用している従業員

区分 (片道通勤距離)改正後改正前
55km以上38,700円31,600円
45km以上 55km未満32,300円28,000円
35km以上 45km未満25,900円24,400円
25km以上 35km未満19,700円18,700円
15km以上 25km未満13,500円12,900円
10km以上 15km未満7,300円7,100円
2km以上 10km未満4,200円同左
2km未満(全額課税)同左

 

「適用開始日」の注意点

この改正で人事担当者が最も注意すべきは、適用開始日です。

非課税限度額の適用開始日として定められたのは、2025年4月1日以後に「支払われるべき」通勤手当についてです。

ここでいう「支払われるべき通勤手当」とは、実際に支給日が2025年4月1日以後となるものです。
通勤手当の計算期間が2025年3月分であっても、その支給日が4月1日以後であれば新限度額が適用されます。

制度適用は、「支払われるべき日」がカギとなるため、自社の給与規程や支給慣行に基づいて適用時期を判断する必要があります。
特に、遡及して差額を支払う場合や、支給日が本来と異なる場合の扱いは複雑です。

 

事例支給日対象期間適用される限度額根拠
ケースA2025年4月10日2025年3月分改正後の限度額支給日が4月1日以後のため。
ケースB2025年3月10日2025年4月分改正前の限度額支給日が4月1日より前のため。
ケースC2025年4月10日(未払いだった)令和7年2月分改正前の限度額本来の支給日が3月10日(4月1日より前)のため。

 

• 「当月締め、翌月10日払い」であれば、2025年3月分(4月10日払い)から新限度額が適用対象です。

• 「当月締め、当月25日払い」など、支払いサイクルによっては、
すでに2025年3月以前に4月分以降の手当を支払っている場合があります(ケースB)。
この場合、その支払いの時点では旧限度額が適用されます。

 

給与規定の改定を行う場合の「差額支給分」は適用対象か?

今回の改正を踏まえ、2025年4月1日に遡って通勤手当を増額する給与規程の改訂を行う企業も少なくないでしょう。

この「差額支給分」について、新限度額が適用されるかどうかの判断も重要です。

差額支給をする場合、その差額が、もともと「4月1日以後に支払われるべきだった手当」に対応するものか、それとも「4月1日より前に支払われるべきだった手当」に対応するものかを確認し、税務上の処理を分ける必要があります。

 

新限度額が適用される差額支給例
    ◦ 元の支給日:令和7年4月10日(3月分)
    ◦ 差額支給日:令和7年12月25日(改訂後の支給日)
 ◦ 対象:2025年4月10日に支給した通勤手当との差額
    ◦ 結果: 元の支給日が「令和7年4月1日以後」であるため、差額支給分も新限度額が適用されます。


新限度額が適用されない差額支給例
    ◦ 元の支給日:令和7年3月10日(4月分)
    ◦ 差額支給日:令和7年12月25日(改訂後の支給日)
 ◦ 対象:2025年3月10日に支給した通勤手当との差額
    ◦ 結果: 差額支給日は4月1日以後ですが、この差額は「2025年4月1日前に支払われるべき通勤手当」の差額として追加支給されるものであるため、改正前の非課税限度額が適用されます

 

年末調整に関する注意点

改正前の限度額を適用して、すでに2025年4月1日以後に支払うべき通勤手当を支給した場合、過納付となった税額の精算は、すべて本年の年末調整の際に行うことになります。

ただし、もし今回の改正を踏まえて通勤手当を増額し、その合計額が改正後の非課税限度額内に収まるのであれば、その全額が非課税となるため、年末調整の際に別途精算の手続きは不要です。

年末調整が迫るこの時期に、
人事担当者が実施すべき具体的なタスクを3つのステップに分けて解説します。

 

①給与規程・支払額の見直しとシステムの更新(即時対応)

支給基準の確認と見直し
まず、自社の給与規程を確認し、交通用具使用者に支給している通勤手当の金額が、今回の改正後の非課税限度額を超えていないか確認します。

・遡及支給の検討
改正前の限度額の範囲内で支給していたものの、今回の引き上げを受けて、2025年4月1日に遡って増額支給(差額支給)を行うかどうか相談します。

給与計算システムの更新
2025年11月20日以後の支払いや、年末調整計算に備え、
給与計算ソフトの非課税限度額テーブルを直ちに更新します。

 

②年末調整における精算業務の実施

2025年4月1日から11月19日までに支払われた通勤手当のうち、旧限度額を適用したために課税対象となっていた部分について、新限度額を適用し直して過納付税額を精算します。

源泉徴収簿の余白に新たに非課税となった金額や計算根拠を記載することが推奨されていますが、正しく年調年税額が算出される給与計算ソフトを使用している場合は、記載を省略しても差し支えないようです。

 

③特殊なケースへの対応(源泉徴収票の再交付など)

年末調整前にすでに手続きを完了させている従業員がいる場合は、個別の対応が必要です。

(例)2025年の中途で退職した/海外転勤した/亡くなった従業員:

源泉徴収票を交付済の場合、支払っていた通勤手当が改正前の非課税限度額以下であれば、特段の対応は不要です。

しかし、改正前の限度額を超えていた場合で、新限度額を適用することで新たに非課税となる部分が生じたときは、対応が必要です。

「支払金額」欄を訂正し、「摘要」欄に「再交付」と記載した給与所得の源泉徴収票を新たに作成し、退職者に再度交付しなければなりません。

源泉徴収票を再交付する際は、非課税とされる部分の通勤手当の金額を除いた金額を「支払金額」欄に記入してください。

また、死亡や海外勤務(非居住者化)により、年の中途で年末調整を既に実施していた場合も、上記と同様に、旧限度額を超えていた場合は新限度額を適用して年末調整の再計算を行う必要があります。

  

まとめ

今回の通勤手当の非課税限度額の引き上げは、特に交通用具を使用する従業員にとって実質的な手取り増加につながる歓迎すべき改正です。

しかし、その遡及適用と複雑な支給日判定は、人事担当者にとって年末の大きな事務負担となります。

現場で従業員から質問を受けた際に、「聞いてない」「知らなかった」とならないよう、
まずは制度のポイントを押さえておきましょう。

もし対応に迷う点があれば、専門家である社会保険労務士にお気軽にご相談ください。

参考:

通勤手当の非課税限度額の引上げに関するQ&A_国税庁

 

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