上場準備期間に解決するべき、みなし残業代の具体的な整備方法

- みなし残業とは?
- 具体的な整備方法と留意点
- 確認しておくべきポイント
みなし残業制度(固定残業制度)とは、
企業において従業員に支給する給与に、予め合意された時間外労働手当を含める制度です。
もちろん制度導入にあたっては多くのエネルギーを要しますが、導入後であっても適正な制度となっているか、また、それが継続できているかは定期的に精査が必要です。
上場審査においては、特にみなし残業時間を超えた未払い残業代の有無について確実に対応しておかなければなりません。
この制度を導入する目的は様々ですが、
給与計算の簡素化と、生産性の高い労働者への報酬提供を主としています。
しかし、IPO準備においては違法性があるとみなされるケースがあり、
未払い残業代として高額な簿外債務の発生に繋がる場合もあります。
みなし残業時間の導入メリット
①給与担当者の作業時間の短縮
労使間で合意した時間外労働時間数がみなし時間に達していない場合は
追加の時間外手当支給が必須ではないため、給与担当者の作業時間が大幅に短縮できます。
ただし、みなし時間を超えた分の時間外労働があった場合は、
当然、追加で時間外労働手当を支給しなければなりません。
また、みなし残業を超える部分の時間外労働手当が未払いとなっていないかは、
上場審査においても典型的な論点であるため、確実に対応しておくことが求められます。
②生産性の高い従業員への報酬提供
短い時間で仕事を終了させることができれば、
みなし残業代に含まれる部分は、
単なる残業代ではなく、能力に対する報酬として受け取ることができます。
自身の能力や努力が評価されて報酬として還元されることで、
組織に忠誠心を持ち、長期間働き続ける意欲が高まります。
具体的な整備方法と留意点
①みなし残業時間の設定は社会のルールに適合した形で設定する
みなし残業時間の設定は、公共の秩序や良俗に反しないようにすることが重要です。
法律や社会のルールに適合した形で設定することが求められます。
みなし残業時間は明確に上限時間が定められていません。とはいえ、あくまで1か月の平均残業時間を想定したものであり、
「時間数を100時間にする」等の対応はそもそも公序良俗に反しています。
②36協定の範囲内に留める
36協定における1ヶ月の法定時間外労働時間の上限は、原則⽉45時間・年360時間です。
そのため、それを超える時間数に設定することは理論上整合性が取れません。
労働時間や給与に関する合意や規定(36協定など)を遵守することが必要です。
設定されるみなし残業時間は、法律や規定に基づいて行われなければなりません。
③給与額の設定
近年は働き方の多様化に伴い、基本給だけしか支給されていないというケースは乏しく、
職務手当や技能手当など、基本給と併せて職務に関連した手当が多く存在します。
その場合は労働基準法上、時間あたりの給与額の設定をするにあたっては
基本給だけでなく、職務手当や技能手当も含めた単価設定をしなければなりません。
ただし、以下に掲げる手当は単価設定の際に除外することが可能です。
| ・家族手当 ・通勤手当 ・別居手当 ・子女教育手当 ・住宅手当 ・臨時に支払われた賃金 ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
また、上記と同様の名称であっても、算入するケースがあります。
| ・家族手当 家族の人数に関わらず一律に支給する場合 ・通勤手当 通勤に要した距離に関わらず一律に支給する場合 ・住宅手当 住宅の形態ごとに一律に定額支給する場合 |
④時間外単価
昇給や手当額の改正があった場合には副次的に時間外単価も変動します。
従業員がみなし残業時間を超えてしまった場合、追加で残業代を支給する必要があります。
万が一、支給ができていない場合は、労働基準法に違反し、未払い賃金が発生します。
そのため、みなし残業時間を超える残業が発生した場合には、
適切な手続きとともに、追加の残業代を支給することが重要です。
確認しておくべきポイント
・最低賃金
みなし残業制度を導入後であっても、固定残業代(および法律上除外することができる一部の手当)を除外した金額で最低賃金を下回っていないかの精査は必要です。
近年は全国どの都道府県でも上昇傾向にあり、
毎年10月には改定が行われますので、必ずチェックが必要です。
・時間外単価
昇給や手当額の改正があった場合には副次的に時間外単価も変動します。
この部分も必ずチェックが必要です。
・みなし残業制度の導入手続き
労働条件通知書で「基本給部分」・「みなし残業代」を区分して明示しなければなりません。
これには、全ての労働者に同様の対応が必要です。
みなし残業時間が労働者毎に異なることについては合理的な範囲内では差し支えありません。
また、既存の賃金総額を変動させずに基本給からみなし残業代へ振り分ける対応は
労働条件の不利益変更にあたりますので、十分な説明をし、労使間での個別の明確な合意が必要です。
労務監査チームのコメント

社会保険労務士
労務監査チーム 本村なつ記
みなし残業制度は労使ともにメリットがありますが
取り扱いは慎重にすべきものです。
明確区分性(基本給等から明確に区分されているか)、
対価性(時間外労働等の対価であることが明示されているか)、超過分の割増賃金が支給されているかがよく論点となります。
裁判でもみなし残業時間制の適用が否認されるケースがあり、
最悪の場合は今までの時間外労働に対する割増賃金の全額が
未払い賃金となるリスクがあります。
導入・運用に際しては、法令に則ったお取り扱いをするようご注意ください。
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